*MENU* トップ サイトマップ 管理人部屋 掲示板 チャット リンク *RPGツクール作品* SELECTION 二次創作 他・短編
SELECTIONとは DL 攻略情報 製作日誌 クリア後(いただきもの等)※ネタバレあり
クリア後のページ 投票企画 いただき小説 いただきイラスト ★リクエスト品

決戦前夜

〜TWO DIFFERNT GIRLS〜



”混沌の街”の異名をとる小都市、加澄市。
深夜の学校の一室、通称”開かずの間”にて。
人知れず一つの戦いが終着を迎えようとしていた。

何かが床に落ちる、乾いた音が響く。
部屋中に散乱する怪しげな本や雑誌に混じって
乱雑に脱ぎ捨てられた漆黒のマントとシルクハットが
床を転がる持ち主を受け止めた。
その上に音もなく倒れかかったのは
――――白く光る一枚の仮面だった。

「さすがは、あのフスタ師のご子孫です。
 お見事だと言っておきましょう」

どこからともなく発せられる声。
禍々しい哄笑の表情を張りつけた仮面は
きしるような声で立ち尽くしたままの
二人の少女に 語りかけた。

「しかし、あなたもすぐに知ることになりますよ。
 所詮、異端者は異端者。
 『魔術師連盟』はあなたにとって
 安住の地になどなりえないということを……」
その言葉にぴくり、と年長らしい髪の長い娘の表情が動いた。
「絆……?」
もう一人、顔立ちに幼さを残した髪の短い少女が
怪訝そうにその様子を見やる。
絆と呼ばれた少女は、足元の仮面に視線を落とした。
「たとえ、それがあなたの言う通りだとしても。
 これが私の生き抜くための唯一の手段よ」
一語一語、はっきりと区切るように告げた言葉は
むしろ自分自身に言い聞かせているかのようだった。
「ふふ……何事も命あっての物種ですか。
 賢明ですよ」
仮面が声に笑いを滲ませる。その形が少しづつ薄れ
宙に溶けた後、その場には少女達だけが取り残された。

「絆……今の話は、一体……?」
言いかけた言葉は、当の絆によって断たれた。
「勝美。
 あなたには関係のないことでしょう?」
背を向けたままの彼女の表情は読み取れないものの
冷たい声色に含まれた有無を言わさぬ強い調子に
勝美と呼ばれたもう一人の少女が黙り込む。
そのまま、二人はその場を後にした。


「あのさ、絆……」
 校門の向こうに家の屋根が見え始める頃
いい加減耐えられなくなって、私は口を開いた。
 なにしろ『開かずの間』を出てからというものの
たっぷり15分は黙りっぱなしだったのだ。
「何?」
 と絆。
そっけない態度は相変わらずで、足も止めないまま。
月明かりに照らされた、その横顔は青白く染まって
そのせいで一層冷たく見えた。

―――西川 絆。
『魔術師連盟』のエージェントを名乗る、謎の少女。
何度か私の目の前に現れることになった彼女とは
今は、静原という敵を倒すために手を結んでる。
だから、一応は味方ということになるのだけど……

(関係のない、か)
さっき言われてしまった言葉を思い返す。
たしかに――――頭の中では、分かってた。
絆は、親友の国香や時子とは違う。
友達でも何でもなくてただ、成り行きで
一緒に戦うことになっただけだってこと。
それでも。
はねつけられるのは何とはなしに寂しかった。

「どうしたの、勝美?」
呼び止められてはっとした。
絆が少し前方で止まって、じっと私の方を見ていた。
考え込んでいるうちに立ち止まってたらしい。
「いや、別に……なんでもない」
というのは、ホントは嘘で。
聞きたい事というか問いただしたいことは
それこそ、山ほどあるんだけど。

(でも、聞いても答えてくれそうにないしな……)
「なあ……『絆』って名前、変わってるけど
 誰につけてもらったんだ?」
 結局、口をついて出たのは心にあるのとは違う質問で。
「え?」
 絆の方も予期してなかったのか、目を見張った。
 また関係ないってはねつけられるかと思ったけど
 しばらく考えた後に、ちゃんと返事を返してくれた。
「……私の祖母よ」
「ふ〜ん。ばあちゃんか。
 私の名前をつけたのはじいちゃんだって
 親父から聞いたことがあるな。
 もっとも、そのじいちゃんは
 ずっと昔に死んじゃってるんだけど」
「そう……私の祖母も、私が幼い頃に亡くなって
 今では顔もほとんど覚えていないわ」
「……そっか」

少しだけびっくりした。
絆がこんな聞いてもないことを彼女の方から
話してくれるとは思ってなかったので。
びっくりと同時に嬉しかった。
だから、こうして話してくれるうちに
色々なことを聞いてみようと思った。

「で、そのばあちゃん、なんて名前だったんだ?」
「……そんなこと聞いてどうするつもり?」
気軽に話してくれたのはほんの一瞬だけで
すぐに絆の声は警戒する調子に戻ってしまう。

「いや、別に。
 ただ絆と似た名前の人だったのかなって。
 ホラ、よくあるじゃないか。
 家族で似たような名前付けることって」
「そうね……たしか、あなたの家も
 そうじゃなかったかしら?」
「うん。私が『勝美』で親父が『勝正』。
 ちなみに私に名前付けたじいちゃんは
 『勝平』っていう名前でさ、『勝』の字だけは
 絶対入れろって言い張ってたんだって」

小さい頃に親父から聞いた話である。
もし、このじいちゃんが生きてたら弟の正太も
絶対『勝男』とか『勝彦』とか、そういう風に
名づけられてたに違いない。
私としては、自分でつけた『正太』って名前が
正太本人と同じくらい気に入ってるので
それ以外の名前なんて想像もつかないのだけど。

「祖母は、私とは似ても似つかない名前だったわ。
 人とのつながりを大事にする子供になるように 
 と願って、この名前をつけたそうだけど」
「へぇ、いい由来じゃないか」
私は感心した。
私の名前にはそういう由来はないので、羨ましくさえあった。
「そうかしら?
 『絆』という単語は束縛の意味も含むのよ」
と絆。
その語調になんか引っかかるものを感じて
私は思わず彼女の顔を見た。

絆は無表情だった。
まあ、いつもそうなのだけど、この時は……何かが違ってた。
私は彼女を怖いと思ったことはなかったけど
(彼女に限らず、人を怖いと思ったことなんてない。
 月岡や静原に殺されかかった時も、びびったけど
 不思議と心から怖いとは思わなかった)
でも、この時の彼女の眼差しには……
なにか寒気のようなものさえ感じた。

「絆は自分の名前、キライなのか?」
思わず、そう尋ねずにはいられなかった。
「……そういうわけじゃないわ。
 ただ、少し……嫌なことを思い出していただけよ」
「嫌なこと?」
私の問いには答えず、絆は逆に聞き返してきた。
「勝美は、入院したことは?」
「入院……?いや、別に。
 ガキの頃から風邪ひとつひいたことなかったし……。
 まぁ、それも静原から受け継いだ性質かもしれないけどな」

最近、知ったばかりの自分の出生の秘密のことを思った。
そのことで、何かが変わるとは思いたくないけど
十分に衝撃的な真実。
自分が単なる復讐の道具にすぎなかったことを知るのは
決して愉快なことじゃなかった。

「って、私のことはこの際いいとして。
 絆は、入院してたことがあったのか?」
「子供の頃の話よ」
そう絆は言う。
「絆の子供の頃か……何か想像もつかないな」
「そう?私は病院暮らしが長かったから
 こうやって出歩くようになってからまだ何年も経ってないのよ。
 だから、経験の上ではむしろ、あなたより幼いかもしれないわ」
「……そうなんだ」

意外だった。
いつも冷静でものをたくさん知ってそうな絆だから
小さい頃から世の中を渡り歩いて、色々なものを
見たり聞いたりしてきたんだと思っていたけど
そういうわけじゃなかったらしい。

「あのさ、絆……」
「どうしたの?」
「私ってさ、結局はあの静原の野郎が気まぐれで作った
 実験体にすぎないのかもしれないけど。
 それでも、この年まで元気に生きてきたし、家族や友達もいるし
 行きたいと思ったとこはどこでも行けるんだし……」

だから、自分のこと可哀想なんて思わない。
思いたくない。
確かに真相を知った時は、滅茶苦茶ショックだったけど
だからといって、今まで過ごしてた時間までが
変わってしまうわけじゃないのだから。

「絆の子供の頃に比べたら……ずっと幸せなんだよな」
「……」
絆は無言だった。
ややあってぽつりと呟くように言う。
「境遇を比べるなんて意味のないことよ。
 何が幸せで、何がそうでないかは各人が決めることだから」
「そんなものかな」
私は首をかしげる。
絆のこと、ほとんど何も知らないけど……
それでも彼女は私より幸せという風には見えなかったから。
「比べるなんて……惨めになるだけよ」
最後の一言は、ほとんど聞き取れなかった。
「え?」
聞き返そうとした時には、絆は既に校門をすり抜けて
さっさと家の方角に向かって歩き出した後だった。
「絆!
 ちょっと待てよ……絆ってば!」

絆の言ったりしたりすることは、私にはいつも唐突すぎて。
別にその全てが理解できるとは思わないけど
それでも、できることなら、できる範囲でいいから
彼女のこと知りたいと思う。
せっかく、こうして出会うことができたんだから。
友達になれなくても、それくらいいいんじゃないかって思う。

―――仲間、なのだから。少なくとも今だけは。


     
=作者による突込み後記=

栄えある(?)SELECTIONのSS第一作は勝美の一人称に挑戦です。
時間的には4日目夜のサブイベント「マジシャン編」直後になります。
本当はあの後、校門に向かって戻る途中にこの会話を入れるつもりが
本編との関連性も入れる必然性もないので、没にしてました。
それをSSとして復活させたのがコレ。
冒頭の斜線部分は、イベントをそのまま小説風に書き直しただけです。
前フリが長すぎるっての(汗)
でも、この時の会話がないと勝美の突き放された感じが
うまく出せないしなぁ……う〜〜ん(悩)

この時点での絆はまだ勝美に対して冷たいままですね。
彼女の屈折した心情を表そうとしたのですが……今ひとつ。
むしろ勝美の鈍感っぷりの方が引き立ってる感じですね。
後半、どうオチつけていいか分からずに迷走してますが
とりあえずこれで完成です。

(マジシャン編やってない人には意味不明かも……)